2014年 05月 18日
佐々木節子 第51回光風会兵庫支部展にて |
第51回光風会兵庫支部展は、2014年5月10日から18日に兵庫県立美術館原田の森ギャラリー(東館)で開催されました。
僕は会期終わりに近い5月17日(土)の午後、家内に付き添ってもらって会場を訪ねました。入口のガラス扉を入ってすぐ正面、佐々木節子さんの大きな絵2点「ビルの谷間」と「ひととき」が、目に飛び込んできました。会場では1階と2階に、光風会会員、会友、一般などの作品35点余りが展示されていましたが、多くは印象的な作風の親しみやすい作品でした。この会場で佐々木節子さんとお目にかかれたのは、芦屋での「個展」を拝見した2013年の夏以来でしたから、とても幸せでした。
小休止 第44回日展2012 F100 佐々木節子
佐々木節子 第51回光風会兵庫支部展「ひととき」
「ひととき*」と題された佐々木節子の大きな婦人像は、ピアノの練習の手を休める実のお嬢さんをモデルにした一連のシリーズの、この1年余りの最新作4点のうちの1点である。他の出展作家の人物像に見るような、強烈に主張する色と輪郭線はない。かといって曖昧な色調ではない。画面に匂い立つのは、温かい血の通ったピアニストを、クールに包み込む衣装はブルーグリーン。背景にはマンションのベランダから遠く見はるかす六甲の山並みと点在する白い家々が、いくぶん押さえられた明るい色調でぼんやりと魔法のヴェールがかかったように描かれている。そしてピアニストの髪、顔、日常的な室内用のワンピース、裸足の爪先までの輪郭が、背景から対照的に鮮やかに浮かびあがる。
淡彩の花の絵を20点仕上げることができるほどの時間をかけて油絵の大作へと、枯れることのない画家の創作意欲を掻き立てているモチーフは、若い女性が時折魔法にかけられて夢を見る「ひとときの幸福感」だろうと思う。魔法がとけると味気ない現実の世界に戻らねばならないことをよくわかっていながら、いつしか夜更けまで母と娘はこのカンバスのなかでお互いの時間を共有して戯れている。母である画家は、娘の幸福な「ひととき」の時間とその思いをカンバスに定着させておきたいと願い、娘がいる魔法の世界に自らも同化して、その絵画的手法を探し求めている。この扉から侵入しようとするものがあれば、母と娘は、力を合わせて魔法の世界のドアを守る。
*このサイトには「ひととき」の画像はありません。
ビルの谷間 第92回光風会展2006 佐々木節子
佐々木節子 第51回光風会兵庫支部展「ビルの谷間」
佐々木節子の作品に、芦屋市内を描いた風景画がある。阪神淡路大震災の直後に見た水路宮川の、水辺に生い茂る濃い緑の雑草の、人の気力に勝るような生命力が強烈だった。 カンバスの中に鋼鉄の橋を架けて赤い点のような自分をその橋の上に置いた。私は生きている。
この展覧会に出品されたもう1点の「ビルの谷間」(2006)という作品にも、舗道を歩く自分を描き込んでいると言う。 雑踏のなかに自分を見失いそうな自分だ。他に市内の宮塚公園や呉川公園などの絵もある。絵の中に自分を置いて考えてみる。 自分は絵の中にいる。その絵の中から自分の意志で外の世界に飛び出すつもりは、当分、ないのだろう。魔法の世界が心地いい。
まるでテレビドラマの原作者が嬉しがってさりげなく画面の隅に登場したがるみたいに、風景の中に自分を描き込んでみても、 それにはたぶんたいした理由はないと思う。カンバスに煙るような8年前の銀座の舗道では、若いカップルが見果てぬ夢を見ながら、まだその表情に明確な輪郭をもっていない。「ビルの谷間」は「かげろうの街」である。このころの佐々木節子が、自分を風景の中にさりげなく自分を置くのは、むしろ「かげろうの街」での「自分探し」だったのではないだろうか。
けれどもさらに想像を進めてみよう。 知らず知らずのうちに、カンバスに定着された「自分」を見ている佐々木節子がいる。 ベルト・モリゾはまるで「マネの目」で自分を見る。佐々木節子は「誰の目」で「自分」を見るようになったのだろう…。
小休止 第94回光風会展2008 佐々木節子
展覧会場の受付での立ち話で見せていただいたのは、赤いドレスの若い女性が描かれた油絵の、小さな古い写真だった。この小さな写真の絵の中に、画伯によってカンバスに定着させられた若いモデルがいる。このモデル、私なのよ、と佐々木節子は言った。ぼくはその時初めて、彼女が師と仰ぐ洋画家の名前を聞いた。画伯の経歴に、1971年日展出品作「緑の服」等により芸術院賞受賞とあった。「緑の服」は、ぼくが「赤いドレス」と勝手に決めたあの写真と同じ絵だと思う。40年の歳月を経て、その時のモデルはいま、職業的画家の目を持ち、画伯のようなたくましいデッサン力で、新しい時代の若い女性像をカンバスに焼き付ける作業を模索している。その道程は近年始まったばかりだろう。
想う 第97回光風会展2011 佐々木節子
花や果実を淡彩で描き続けた佐々木節子が近年は、ピアニストのお嬢さんをモデルにした大きな油絵の連作シリーズに意欲を掻き立てられて、創作に飽くことがない。「小休止2008」「憩う2011」、日展入選作の「小休止2012」「ひととき2014」。カンバスに追い求めるのは、40年も前に、師と仰ぐ画伯によってカンバスに定着された自分自身の「幻影=ドッペルゲンガー」ではないだろうか。今も手に残る昔の古い写真の、画伯の小さな魔法の世界に、同化し融け込んで行くことによって、自分自身の絵画手法を探し求めているのではないだろうか。
人工的なモザイクがかかった抽象の世界に魔法は探せない。中途半端でなく徹底した具象の絵画のなかにこそ魔法の世界があるはずだ。佐々木節子の言葉と僕の文章にはとても埋められない距離がある。それは職業的画家の感性と、直感で貧しい語彙の中から言葉を探す素人の距離だ。それでも縫いぐるみのネコが、ふうっと背伸びをして歩き始める魔法の世界を、絵の中に見つけるくらいの楽しみ方はできる。抽象の絵のなかでそんな楽しみ方はできない。
Text:熊本幸夫
佐々木節子プロフィール
福井県生まれ。金沢美術工芸大学洋画科卒業。芦屋在住。光風会会友。
淡彩画や油絵の制作の傍ら、絵画教室の講師。
1947年 福井に生まれる。
1970年 金沢美大を卒業後、静岡県富士見市の中学校美術教師に就く。
1972年 福井放送会館で、絵画教室を開講。
公民館講座の美術講師を務める。
1976年 福井から芦屋市に引っ越す。
甲子園学院高校の美術講師を務める。
1981年 出産を機に勤めを辞め、光風会の出品を一時中断する。
この時期より、独自の淡彩画を描くようになる。
同時に絵画教室も開く。
1991年 市立芦屋高校の美術非常勤講師に就く。
2002年 20年ぶりに光風会に復帰。
2007年 長く勤めた高校を退職
福井駅前ユアーズホテルのロビーに、淡彩画を展示。
2011年 4月 東京にて個展を開催
過去に、福井・神戸・芦屋などでも開催
2012年 日展に入選
2013年 ギャラリーアンダンテにて個展。
2014年 5月 第51回光風会兵庫支部展に出展
兵庫県立美術館原田の森ギャラリー
6月 淡遊会(佐々木節子指導絵画教室)
第15回作品展開催 芦屋市民センター常設展示場。
by kumamotoyukioch
| 2014-05-18 13:04
| 美術