2014年 07月 24日
宇治拾遺物語 第57話 石橋の下の蛇の事 |
[意訳・宇治拾遺物語 第57話] 石橋の下の蛇の事
昨日、雲林院の菩提講に参りました道すがら、大宮あたりであなたをお見かけしたのでございます。あなたが踏み返された川辺の石の下からまだらの蛇が出てきて、ずっとあなたのあとについて行くのです。不審に思いお知らせしようと思ったのですが、もしや蛇のあなたへの報復かもしれぬと、恐くて声をかけることができませんでした。菩提講の間も蛇はそばにおりましたが誰にも見えない様子です。講が終わってお出になると蛇はまた、あなたのあとについて行くではありませんか。わたくしには事の成り行きがとても気がかりで、宿に困った旅の女だと装ってここに泊めていただいたのです。蛇は夜中過ぎまでたしかに柱のもとにおりましたが、夜が明けますともう見えなくなっておりました。あなたには何事もなさそうなご様子なので安堵いたしました。
この女よき程に寝起きて…、「今宵夢をこそ見つれ」といへば、「いかに見給へるぞ」と問へば、「この寝たる枕上に、人のゐると思ひて見れば、腰より上は人にて下は蛇なる女、清げなるがゐていふよう、『おのれは人を恨めしと思ひし程に、かく蛇の身を受けて、石橋の下に多くの年を過ごして、わびしと思ひゐたる程に、昨日おのれが重石の石を踏み返し給ひしに助けられて、石のその苦をまぬかれてうれしと思ひ給へしかば、この人のおはし着かん所を見置き奉りて悦びも申さんと思ひて、御供に参りし程に、菩提講の庭に参り給ひければ、その御供に参りたるによりて、あひがたき法をうけたまはりたるによりて、多くの罪をさへ滅して、その力にて人に生まれ侍るべき功徳の近くなり侍れば、いよいよ悦びをいただきて、かく参りたるなり。この報ひには、物よくあらせ奉りて、よき男などあはせ奉るべきなり』と、いふとなん見つる」と語る。
何とかいう大臣家の下家司に嫁して、たいそう幸せになり、万事思いのままに暮らしている女とお尋ねになってみれば、それが誰だかすぐにも分かるでしょう。わたくしもあのことがご縁でいまでも親しく往き来をしています。
by kumamotoyukioch
| 2014-07-24 12:58
| 文学