2014年 12月 12日
宮崎あおい主演 映画「初恋」 |
いきなり映画を観てもよくわからないけれど、とにかく一度観てからストーリーの解説を読むと分かりやすい。たとえば最初に映画を観ただけでは読み取れなかった大事な人間関係がある。それは「みすず」(宮崎あおい)と「リョウ」(宮崎将)は、離ればなれで育った兄と妹だということだ。この理解が欠けると、映画の初めから「みすず」の行動がなんとも不可解に映る。母親が兄の「リョウ」を連れて出奔したため、残された妹「みすず」は伯母の家に引き取られたやっかい者である。「みすず」は高校生だが、兄の「リョウ」を慕って新宿の裏町、ジャズバー「B」を訪ねる。ジャズバー「B」には「リョウ」や「岸」(小出恵介)など空しい日々を送るボヘミアン仲間がたむろしている。時代は60年代後半、学生のデモ隊と機動隊が衝突して荒れた新宿が舞台だ。
映画のラスト、「みすず」は電話を受けて病院に駆けつける。観客は「みすず」の行動を追っているから、霊安室に横たわる青年は「みすず」が淡い想いを抱いて再会の時を待っている共犯者、「岸」の遺体だと思い込むだろう。実は自分がそうであった。しかし死んだ青年は「みすず」の兄の「リョウ」だった。それが分かっていれば病院のベンチで泣き崩れる和服の女性が「リョウ」の母であり、つまりは「みすず」の実母であると理解できる。「みすず」はベンチから立ち上がり、自分を捨てた実母に声をかけることもなく病院の玄関を去るという情景が初めて理解できる。
映画のエピローグで、ジャズバー「B」に集った若者たちそれぞれの、その後の消息が写真とテロップで観客に知らされる。廃墟となったジャズバー「B」のモノクロ写真を見ると、このドラマがデモの嵐が吹き荒れた時代の青春群像劇であるかのようなイメージをかもしている。「みすず」が再会を待ち望んでいる主人公の「岸」の写真の下に「消息不明」と出したのは、不安な時代の若者たちの寂寥感の余韻の効果をねらったものだろう。
宮崎あおいが主演したこの映画「初恋」が放送されたのは実際に「三億円強奪事件」のあった12月10日だった。映画で「みすず」と「リョウ」の兄妹を演じた宮崎あおいと宮崎将は実の兄妹なのだそうだ。ふてくされているが幼い、ひたむきな愛のために無謀な行動に出るたくましさ。白バイに乗って宮崎あおいが演じた高校生はとても魅力的だった。この映画の2年後、宮崎あおいはNHKの大河ドラマ「篤姫」で日本中を湧かせることになる。
by kumamotoyukioch
| 2014-12-12 15:16
| 映画