2013年 11月 04日
音楽事務所の役割 |
むかしはコンサートの入場料に入場税がかかりましたから、演奏家は音楽事務所に依頼して開催申告と終了申告、納税をする必要がありました。税務署に出向いて入場券の裏に検印スタンプを押す、そのテクニックとスピードを競う音楽事務所のスタッフの自慢話が飛び交った時代です。いまだから明かせる話ですが、入口に立ってチケットのモギリとプログラムの手渡しを両手でさばきながら、半券をちぎらないでお客をスルーさせ、回収した入場券を売れなかったことにして入場税の終了申告に回すテクニックも、音楽事務所のスタッフの巧妙な手口でした。ともあれ、演奏家がリサイタルを開くとなると、こんな風に演奏家と裏方は、コンサートの表と裏を専門的に、棲み分けていたのですね。やがて時代は移り、入場税は消費税に変わり、モギリにはホールのロビースタッフが立つようになると、だんだん音楽事務所の事務方専門、”アナログ・テクニカル・スタッフ”は影を潜め、語り草になるほどの強者は、時代とともに姿を消して行きました。
コンサートを開催するという事業は、いまでは簡単なように思えますが、考えて見ればリスクをはらんで怖いものです。天災地変に襲われたら、あるいはコンサートの現場で事故があったら、あるいは…、というような万万一の問題が生じた場合の現場の、的確な判断と処理ができる主催責任者が、興行の場合、必ず必要なのです。音楽事務所で主催責任を経験したトラブルで言うなら、マルタ・アルゲリッチが印象に残ります。彼女の夫婦げんかによる無断離日で、全国18公演をキャンセル処理しました。あるいはアレクシス・ワイセンベルクのザ・シンフォニーホールのリサイタルで風邪とアレルギーによる開演間際の公演中止をホール玄関で処理しましたね。小澤征爾指揮の桐朋学園オーケストラが新幹線の架線事故で到着が大幅に遅れ、フェスティバルホールの超満員の聴衆に待っていただいて、夜の9時から開演したこともありました。大阪城西の丸庭園でやった創作野外オペラ「千姫」は途中で雨になれば大騒ぎになるはずでした。それぞれの現場では結構腹がすわっていたと思いますが、いまにして思えばとても怖い思いがします。
いま演奏会は演奏家自身によって手軽に開催されている風潮があります。音楽事務所をマネジメントとして使わずに、演奏家自身がPCを駆使して事務方の仕事を充分こなせるからです。演奏に専念するにまだ余力があるのは立派なものです。しかしですね。大型の台風が来る、地震が起きた、楽屋で火災が発生した、舞台で事故が起きた、盗難があった、演奏家が急病になる、客席に急病人が出た、プログラムの変更を余儀なくされる、払い戻しをする、警察や消防に届ける、このような状況はめったにあるものではありませんが、起こらないとは言えません。そんなときに主催責任が問われます。そしてそのときに舞台袖やロビー周りの現場を仕切ってくれるコンサート・マネジメントのプロが居なくて、演奏家のあなたが果たして、決断と事故処理の表に立てますか?そして長引く事後処理があります。だから、”できる”演奏家でも、音楽事務所を「興行事故保険」だと考えて、あだおろそかにしてはなりません。
考えれば、音楽事務所が担う役割は決して軽いものではありません。ところが最近では、台風が来てもコンサートはキャンセルにならないし、公演中止で処理がうまく行かずトラブルになったというような話も聞きません。不安要素はたくさんあるのに、幸運にも波風もたたない様子だから、きっと誰しも気が緩んでいます。もしかすると骨のあるはずの音楽事務所も、厳しさに欠けて、その実体は弱体化しているかもしれません。いま演奏家がそのことに気づいて、楽界に事務方マネジメントを育てる工夫をしておかないと、いざというときに音楽事務所を探してみても、むかしのようなたくましいプロのスタッフはもうどこにも居ないという状況になりかねません。演奏家と手を携えて車の両輪になれるような、信頼できるマネージャーこそ、いまの時節にこそ最も望まれるのではないでしょうか。
コンサートを開催するという事業は、いまでは簡単なように思えますが、考えて見ればリスクをはらんで怖いものです。天災地変に襲われたら、あるいはコンサートの現場で事故があったら、あるいは…、というような万万一の問題が生じた場合の現場の、的確な判断と処理ができる主催責任者が、興行の場合、必ず必要なのです。音楽事務所で主催責任を経験したトラブルで言うなら、マルタ・アルゲリッチが印象に残ります。彼女の夫婦げんかによる無断離日で、全国18公演をキャンセル処理しました。あるいはアレクシス・ワイセンベルクのザ・シンフォニーホールのリサイタルで風邪とアレルギーによる開演間際の公演中止をホール玄関で処理しましたね。小澤征爾指揮の桐朋学園オーケストラが新幹線の架線事故で到着が大幅に遅れ、フェスティバルホールの超満員の聴衆に待っていただいて、夜の9時から開演したこともありました。大阪城西の丸庭園でやった創作野外オペラ「千姫」は途中で雨になれば大騒ぎになるはずでした。それぞれの現場では結構腹がすわっていたと思いますが、いまにして思えばとても怖い思いがします。
いま演奏会は演奏家自身によって手軽に開催されている風潮があります。音楽事務所をマネジメントとして使わずに、演奏家自身がPCを駆使して事務方の仕事を充分こなせるからです。演奏に専念するにまだ余力があるのは立派なものです。しかしですね。大型の台風が来る、地震が起きた、楽屋で火災が発生した、舞台で事故が起きた、盗難があった、演奏家が急病になる、客席に急病人が出た、プログラムの変更を余儀なくされる、払い戻しをする、警察や消防に届ける、このような状況はめったにあるものではありませんが、起こらないとは言えません。そんなときに主催責任が問われます。そしてそのときに舞台袖やロビー周りの現場を仕切ってくれるコンサート・マネジメントのプロが居なくて、演奏家のあなたが果たして、決断と事故処理の表に立てますか?そして長引く事後処理があります。だから、”できる”演奏家でも、音楽事務所を「興行事故保険」だと考えて、あだおろそかにしてはなりません。
考えれば、音楽事務所が担う役割は決して軽いものではありません。ところが最近では、台風が来てもコンサートはキャンセルにならないし、公演中止で処理がうまく行かずトラブルになったというような話も聞きません。不安要素はたくさんあるのに、幸運にも波風もたたない様子だから、きっと誰しも気が緩んでいます。もしかすると骨のあるはずの音楽事務所も、厳しさに欠けて、その実体は弱体化しているかもしれません。いま演奏家がそのことに気づいて、楽界に事務方マネジメントを育てる工夫をしておかないと、いざというときに音楽事務所を探してみても、むかしのようなたくましいプロのスタッフはもうどこにも居ないという状況になりかねません。演奏家と手を携えて車の両輪になれるような、信頼できるマネージャーこそ、いまの時節にこそ最も望まれるのではないでしょうか。
by kumamotoyukioch
| 2013-11-04 21:00
| 音楽