2014年 07月 31日
宇治拾遺物語 第134話 日蔵上人、吉野山にて鬼にあう事 |
[意訳・宇治拾遺物語 第134話] 日蔵上人、吉野山にて鬼にあう事
日蔵上人が吉野山の奥深く修行して歩いておられた時に現れた鬼はこんな風だった。身の丈は七尺(2.12m)、体は紺青、髪は火のように赤く、首は細い。胸の骨は意外と角々しく出っ張って、腹はふくれ、脛(すね)は細い。昔の恨みつらみを根に持って道を誤ったひとがこんな青鬼になったそうだ。この鬼が、行者に出会って、腕を顔に押し当てて泣き続けるのだった。
「これは何事する鬼ぞ」と問へば、この鬼涙にむせびながら申すやう「我は、この四五百年を過ぎての昔人にて候ひしが、人のために恨みを残して、今はかかる鬼の身となりて候ふ」。
その敵(かたき)を、子、孫、曾孫、玄孫から生まれ変わりまで、思うがままに取り殺してきたが、四五百年も経てば、もう殺すべき者がなくなってしまった。結局わたしひとり、怒りの炎に燃え焦がれて、どうしようもない永劫の苦しみにとらわれ続けております。こう言いながら涙を流して泣き続ける鬼の頭には、めらめらと炎が立ち上ってきた。そのまま山の奥深くへ消え去った鬼を、日蔵上人は可哀想に思って、鬼の罪滅ぼしになるような回向などをなさったという。
by kumamotoyukioch
| 2014-07-31 10:45
| 文学